アーカイブ:2016年2月

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「芝生」について

芝生

そして私はいつか
どこかから来て
不意にこの芝生の上に立っていた
なすべきことはすべて
私の細胞が記憶していた
だから私は人間の形をし
幸せについて語りさえしたのだ

(『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』所収)

この短い詩が紙の上に現れたとき、呆然としたのを覚えている。自分が書いたものだとは思えなかった、どうしてこういうものができたのかも分からなかった、いい詩なのかどうかさえ自信がなかった。いわばこの詩は私の深層意識から、夢遊病的に生まれてきたのだ。しかしだからこそ、この詩は私という人間にひそむ「エイリアン」の存在を明らかにしたのだとも言えよう。私自身はこの詩を好きと言うのにはためらいがあるが、奇妙な魅力を感じ続けているのも確かだ。おそらく多くの読者も同じような感想をもつのだろう、批評家によってもしばしば私の代表作のひとつとして取り上げられている。

(初出不明)

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谷川さんの家の、「エッセイ」と書かれた箱に放り込まれていた短い文章です。詩「芝生」は1973年に発表された作品ですが、いまも変わらないみずみずしさを感じます。
(スタッフ 川口)

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ノルウェイの船上で

帽子のかげになっていてうつむいた顔は見えない。軽く組まれた形のいい脚は見える。私は上甲板から下の甲板にいる観光客を見下ろしている。船はフィヨルドをゆっくり進んで行く。人々は左右の絶壁から流れ落ちる滝に歓声をあげているが、うつむいた女性は顔をあげもしない。本を読んでいるのだ。

どんな本を読んでいるのか、そんな好奇心とそしてもちろんちょっと顔をのぞいてみたい気持ちもあって、下へ降りていった。本の表紙が見えた。見慣れない文字が並んでいるだけのそっけない装丁だ。何故か小説ではないと思った。勝手に書簡集だろうと想像した。女性は四十代後半だろうか、生成りのゆったりとしたワンピースを着ている。本を読んでいる姿には、一種近づきがたい威厳のようなものがあった。

何年も前のノルウェイ旅行の雑多な記憶にまじって、そのときの情景が妙に印象に残っている……と書いて、いま突然思い出した。本を読むその姿を写真に撮ったことを。下へ降りて行く前にまず俯瞰で写真を撮ったのだ。あのスライドはどこへ紛れこんでいるのか。探す気はない。心の中のイメージが写真に裏切られるかもしれないから。

私が読書する女性の姿を意識するようになったのは、そのときからかと思う。読む女性は絵画の主題にもなっているし、たしか映画にもなっていた。とすると本を読んでいる女性の姿に魅力を感じるのは私だけではないようだ。読書に我を忘れている姿には好もしい静けさがある。それは男でも子どもでもそうなのだろうが、女の場合、男の私はどうやらそこにそこはかとない色気を感じているらしい。その色気は顔やからだからではなく、本を読むという知的ないとなみからくるものだと思う。

近ごろは電車の中で本を読む人が少なくなった。みんな携帯かゲームに目を落としている。頭にヘッドフォンをかぶっている人も多い。群衆の中の孤独という古めかしい言葉が思い浮かぶ。携帯のメールを読んでいても、好きな音楽を聴いていてもそこには孤独の影があるのだが、その質が読書の孤独とは微妙に違うのは何故なのだろう。

読書するその異国の女性の顔をのぞきこまなかったことを、私は悔んでいない。

(『週刊朝日』2009.11.27号掲載)

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黙って

人のお喋りを聞いているのが苦痛になることがある。自分もお喋りの輪に加わればいいのだが、それが億劫になっている。自分の発するコトバが言葉でしかないということに、嫌気がさしているのだが、それを〈詩〉に近づけようとするときだけ、気持ちが和らぐ。 (俊)

黙って

黙っていたい
木のように
黙っていたい
蟻のように
黙っていたい
空のように

ただ聞くだけ
風を
川音を
人の沈黙を
幼子の
笑い声を

黙っている
花々とともに
一枚の白紙とともに
動きやまない
雲を追って

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【大切なお知らせ】2/6イベント、谷川俊太郎さん体調不良のため「欠席」

2月6日(土)、せんだいメディアテークにて開催を予定していた
谷川俊太郎さんと岩崎航さんの「朗読とトークの会」ですが、
一部、公演内容の変更がございます。
お申し込み済みの方には個別にお知らせをいたしておりますが、
下記、あわせてご確認ください。

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●出演者(谷川俊太郎)欠席のお知らせ
谷川俊太郎さんは、体調不良のためご出演されません。
当日は、公演内容を変更して、岩崎航さん単独での講演会となります。

●イベント内容変更のお知らせ
ご出演は岩崎航さんのみです。聞き手としてナナロク社代表の村井が登壇します。
・講演終了後の谷川さんサイン会も中止となります。
・参加料は半額の1000円といたします。
・その他、開催時間・会場・入場方法はそのままです。

●お詫び
この度は、谷川俊太郎さん風邪のため、欠席となりますこと、
ご予定をあけ楽しみにお待ちいただいた皆さまにお詫びをいたします。
谷川さんご本人も大変に楽しみにされていたのですが、風邪でお声があまり出ないことと、今年85歳になられるご高齢ということもあり、大事をとって今回はご欠席されることになりました。

●今後について
お二人の講演会を、再び、仙台の地で開催できるよう私たちも尽力して参ります。
次回のご予約をお約束することはできませんが、ご興味をもっていただける方は、谷川俊太郎ホームページ、または小社ブログをご覧くださいませ。
開催の際は、先ずはこちらにて告知して参ります。
谷川俊太郎HP:http://www.tanikawashuntaro.com/
ナナロク社ブログ:http://d.hatena.ne.jp/nanarokusha/

 

以上となります。

この度は、出演者欠席のため、公演内容が変更となりますこと、
あらためてお詫び申し上げます。
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谷川俊太郎×岩崎航 朗読とトークの会
今、ふたりが語る「生きていく力」
ナナロク社 代表 村井光男

 

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2/28【対談】詩の特別講座・対談「ぼくはこうやって詩を書いてきた」

みなさまこんにちは。
新しい
対談イベントのお知らせです。

『ぼくはこうやって詩を書いてきた』(ナナロク社)を書いた
親友の編集者・山田馨さんとの久しぶりの公の場での対談開催が
決定いたしました!

当日は、詩と絵本の出版社、童話屋の代表・田中和雄さんが司会を務めます。
会場は谷川さんに縁の深い場所、阿佐ヶ谷。
ご予約はお早めにどうぞ。

定員に達したため、このイベントは受付を終了しました。
たくさんのお申込み、ありがとうございました。(2016.2.2追記)

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詩の特別講座・対談「ぼくはこうやって詩を書いてきた」
【出演】谷川俊太郎(詩人)/山田馨(元・岩波書店編集者)
司会 田中和雄(童話屋)
【日時】2016年2月28日(日)午後2時~4時(開場30分前)
【会場】杉並リボン館 ((株)細田工務店)
JR 中央線・阿佐ケ谷駅 南口徒歩 1 分
【料金】1,500 円(全席自由/要申込•当日精算)
【定員】120 名(先着順)
【申込方法】童話屋へお電話ください。受付番号をお伝えします。
【予約•お問合せ】(株)童話屋 03-5305-3391(受付時間11:00~17:00)
【主催】童話屋サロン講座実行委員会
※詳細は、こちら
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(スタッフ 川口)

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