アーカイブ:2013年7月

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〈詩〉チチのこいびと


 

うちのチチにはこいびとがいます
わたしにはわかります
ハハにはないしょです

 

わるいことをしてますが
チチはあくにんではない
こいびとのひともきっと
わるいとおもいながら
チチをすきになってしまったのです

 

わたしはハハとふたりで
せんたくものをほしています
チチのこいびとはひとりで
なにをしているのかな
おひさまはあたたかいけど
わたしのこころはすこし
ひんやりしています
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〈詩〉それから

 

それからかっちゃんがころんで
みっちゃんもころんであーこも
それからとしはるさんもころんだ
みんなくさのなかであはあはわらった

 

わざところんだのもいたんだよ
みんなといっしょになりたいから
いたいのもきもちいいので
ぼくはころんだままそらをみていた

 

いまがいまじゃなくなって
うんとむかしになったみたいで
そのころもぼくはぼくだった
でもなんにもおぼえてない

 

でもぼくはだれかおんなのひとを
いのちがけですきになっていた
そのきもちだけがいきなりわいてきて
きがつくとぼく なきそうだった
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〈詩〉せつな



テーブルのうえにあったいちまいのかみ
へやのドアをあけたらふわりとゆかへ
くうきにささえられながら
みぎひだりにすべるようにゆれておちてゆく

 

そんなどうでもいいできごとがすき
なんでなのかわからない
おちるまでのみじかいじかんを
〈せつな〉というんだとセンセイがおしえてくれた

 

いをつけたら〈せつない〉じゃないか
すぐにすぎさってしまうからいまはせつない
れきしのほんがとりおとすせつなを
わたしはとりあえずいきています
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〈詩〉し

 
チチはいつもかみきれになにかかいている
うちのテーブルでかくこともあるし
そとでコーヒーのみながらかくこともあるらしい
チチがかいているのはしです
きげんがいいとよんでくれるけれど
おもしろいのもあるしわからないのもある
 
こどものことばでおとなのこころをかく
とチチはいっている
こどものことばにはおとなにくらべて
うそがすくないからだという
 
チチのしはおかねになりません
おかねはかんごしのハハがかせいでいる
でもチチはきにしないで
しはおかねよりたいせつだという
 
ほんとにそうかどうかぼくにはわからない
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〈詩〉いす

 


だいすきなじぶんのいすにすわって
ひろいひろいのはらのまんなかにぼくはいる
まわりじゅうどこをむいてもちへいせん
あおぞらにしろいくもがうかんでいる

 

どうやってここへきたのか
どうしてここにいるのか
ぼくはなにもしらないけれど
ひとりぼっちでもあんしんしている

 

このいすはしんだジイジがつくってくれた
すわりなれたいすはこわれてもなくしても
きえさりはしないと ジイジはいっていた
こころのなかにしぬまでいすはのこる

 

すがたはみえないがハハのこえがきこえる
ちへいせんのむこうでなにをしてるんだろう
ハハのいるところへぼくはかえるのかな
かえらなきゃいけないのかな
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詩人の夏休み&立ち話 夏休みスペシャル

立て続けに、みなさまこんにちは。
7月・8月の約2ヵ月間、詩人は夏休みをいただきます。

夏の暑さにめっぽう弱い俊太郎さん、
この期間は、いつもよりお仕事の量をぐっと控えて、
少し涼しいところで、まとめてお休みを取るのが恒例なのです。

しかし! 俊太郎.comに、夏休みというコトバはございません。
なぜなら、詩人がやる気だから……(夏休みなのに!)

以下、俊太郎さんからのコメントです。

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立ち話 夏休みスペシャル
7月8月、私は夏休み、で、立ち話もお休みです。
でもその代わり、週に1篇ずつ書き下ろしの詩をアップします。
詩を書くのは仕事というより楽しみだから。
全部で8篇か9篇になると思う。すべて子どもになって書きました。(俊)

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というわけで、7月5日より早速、
「立ち話 夏休みスペシャル」ということで、毎週1回、
ほぼ月曜日に新しい詩を「立ち話」上にアップしていきます。
ここでしか読めない、未発表の書き下ろし作品です。

夏の2ヵ月間、おたよりのように届く俊太郎さんからの新しい詩を、
みなさま、どうぞお楽しみに。 (川口) 

 

 

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詩人・一青窈さんと会ってきた

みなさまこんにちは。
今日から7月ですね!
夏がすぐそこに迫ってきている気配がします。

まずは最近の俊太郎情報から。
じゃん!

みなさまご存じ、歌手の一青窈さんと。
「ハナミズキ」や「もらい泣き」などのヒットを飛ばしている一青さん、
実は小学生のころから
ずっと詩を書き続けていて、ついに先日、
初めての詩集『みんな楽しそう』(ナナロク社)が刊行されたのです。

この日は、ナナロク社から詩集を出している詩人同士、
美味しいごはんを食べながら、
創作について、詩についてじっくり語りあいました。

一青さんの詩を読んで俊太郎さんは一言、
「リアルだね、身につまされます」。

そうか、俊太郎さんも身につまされるのか……!!!

ど、どのへんに? とはさすがに聞けませんでしたが
たしかに、世代も性別も超えた生身の人間のきもちが、
一青さんの詩には、いっぱい詰まっていると思いました。 

等身大の恋と愛が綴られた一青さんの詩集、
ただいま限定特別装丁版が発売中です。ぜひご覧ください。
通常版は、7月13日ころから順次、書店さんで販売が始まります。(川口)

『一青窈詩集 みんな楽しそう』書籍について 詳しくは、こちら
*詩集刊行を記念した一青さんのサイン会・朗読会も。詳しくは、こちら

 

 

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立て続け

立て続けに本が出てしまった。1月『自選 谷川俊太郎詩集』『ぼくはぼく』、2月ソングブック〈歌に恋して〉、写真集『写真』、4月『せんはうたう』、6月『ミライノコドモ』『こころ』、他にも絵本がいくつか出ています。

価格を合計してみたら、優に1万円を超えました。もちろん全部買って下さる方はそうはいらっしゃらないと思いますが、この不景気な昨今、私の本に家計の一部を割かせるのは、心苦しい。

というのも以前、愛読者である女子高校生から、あまり続けて本を出されると、お小遣いが足りなくなりますという痛切な手紙をもらったことが、トラウマ(!)になっているからなんです。

詩は金融市場とは無縁ですが、詩をお金の力が届かない聖域に祭り上げるのも、誤魔化しのように思えます。 (俊)

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