今週の一篇

森の熊とテディベア

森の熊はゆったり歩く
木の間隠れのお日さま浴びて
好きな蜜蜂探して歩く

ショーウインドウのテディベアは
脚はあるけど座ってるだけ
どこへも行かないなにも食べない

森の熊は恋をする
そうしていつか生まれる仔熊
ころころころんできいきい甘える

子ども部屋のテディベアは
なにもしないで待っているだけ
誰かが抱きしめてくれるのを

森の熊は年をとる
はるなつあきふゆ五年十年
脚も弱って目もかすむ

屋根裏のテディベアは年をとらない
ただ擦(す)りきれるだけ綻(ほころ)びるだけ
だんだん値段が高くなるだけ

森の熊は死んでゆく
目をつむり落ち葉の上に横たわり
静かなため息ひとつして

アンティークショップのテディベアは
いつまでたっても目をつむれない
ガラスの目玉に世の中映して

* * * * *

十五歳

十五歳
戦争は終っていた
いつも腹ぺこだった
蓄音器のゼンマイを巻いて
ベートーベンを聴いた
学校が嫌いになった

十五歳
いつも独りで本を読んだ
星空を眺めた
宇宙が身近になった
裸の女の人の夢を見た
木漏れ陽を浴びて歩いた

十五歳
会社勤めはしたくなかった
でも生きていきたいと思った
初めてコーラを飲んだ
アメ車に憧れた
また戦争が始まっていた

十五歳
あなたは?

* * * * *

泣く父

父が泣いているのを見た
新聞を読むふりをしていたけれど
後ろ姿で分かった
母がちらっと私を見た
私は目をそらした

どうして泣いているのか
母は知っているのだと思った
私は知りたくない
父が泣くのを見たくない
なんだか恐くなってくるから

父が立ち上がって台所へ行った
ビール缶音立てて開けた
つけっぱなしのテレビから
わざとらしい笑い声が聞こえる

* * * * *