無題

猫に言葉は要らないとよく分かっていながら、ヒトは猫を言葉でつかまえようとする。目の前の猫は世を忍ぶ仮の姿ではないかと、ひそかな畏れを抱きながら、ヒトは猫を目で、手で、想像力で愛撫するのに忙しい。ほんものの猫ではない映像の猫、言語の猫がヒトの魂に宿っている。気づかずにそれを悦びとするほどに、ヒトは猫を愛しているのだ。

百万回死んで、百万回生まれ変わった猫に出会ったことがあるが、それを絵空事と思わせないような佇まいで、猫はこの世をヒトとともに生きている。多分あの世でも、猫は同じような佇まいで天使や悪魔の傍らにいるのではあるまいか。同じ哺乳類でありながら、ヒトと違って猫は群れない。独り自立するその姿に古代エジプト人は神を見た。

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おまえは私たちとは違う宝石の瞳で
私たちに見えぬものを見ようとしている
言葉を得たことでヒトが見失ったもの
意味を信じたことでヒトに触れなくなったもの
それがおまえの魂と私たちの魂を分かつ

鳴き声は文字を持たない
おまえの言葉は意味を超えた音楽だから
私たちはもどかしく問いかけるしかない
おまえの幸せは私たちの幸せと
どれほど隔たっているのだろうと

天地のあわいに生まれた無名のいのちに
名前を与えることでヒトは愛を知る
いのちは声に出さずに心で呼ぶもの
覚めることのない夢のうちに
闇があらわにするものを光は知らない

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