まどさんのこと

一度奥様とご一緒のまどさんとお会いしたことがある。まどさんが奥様を連れていらしたというふうには見えなかった、かと言って奥様がまどさんを連れていらしたというのとも違う。失礼なたとえかもしれないが、猛獣ではない柔和なあまり大きくない動物の夫婦が、連れ立って森から出てきたような感じだった。ちょうどお引っ越しの前だったので、そのことについておたずねすると、奥様がいろいろお話しされたが、まどさんは例によって無口だった。実際的なことはすべて奥様まかせであるように見受けられたが、私にはそれが奥様が世間からまどさんを守っているというふうに思えた。

そのときのまどさんをめぐるテレビ番組で、まどさんはライトを浴びてただ黙って座っているだけという出演の仕方をされた。私ならきっとぺらぺらと自作を解説してしまうだろう、かなわないなあと思った。まどさんの詩はとても静かだ、その静けさがそのまま、まどさんの生きる姿だ。お喋りからほど遠い詩だが、まどさんの詩は決して単純でも訥弁でもない、考え抜かれた短い言葉が、まどさんという人間をまるで彫刻のようにくっきりと私たちに見せてくれる。

私は自分の書いたものをまどさんに読んでもらいたいので、時々本を送ることがある。するとすぐお礼の葉書がとどく、その文面にいつも私は冷や汗をかく。まどさんは私の書いたものを褒めて下さるのだが、褒められれば褒められるほど、私は自分という人間について考えこんでしまう。こんなことを言っては、まどさんにご迷惑だということは十分承知しているのだが、私はいつもまどさんの詩を通して、まどさん自身に会っている、そしてそこに浮かび上がってくるまどさんの澄んだ生き方を、ついつい自分のじたばたした生き方と比べてしまう。私は詩人という存在にずっと疑いの念をもってきたが、まどさんを思うとき、そんな私にも勇気が湧いてくるのだ。

(『ミセス』掲載)

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谷川さんの記憶によると、「まどさんの展覧会の特集記事が雑誌に載ることになって、それに寄稿したものだった気がする」とのことです。2014年に104歳で亡くなったまど・みちおさん。谷川さんは「好きな詩人」にまどさんのお名前をたびたび挙げ、まどさんについての文章もいくつか書いています。(スタッフ 川口)

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